パソコンの画面にずらりと並ぶ、今日中に終わらせなければならないタスクの一覧。

「期限内に、できる限り完璧に近い形で終わらせなきゃ」
「チャットの返信は早く、的確に」

仕事でも、そして家に帰ってからの家事でも、私は常に「完璧」を求めてしまいます。

少しでも予定通りにいかなかったり、完璧にこなせなかったりすると、深く落ち込む。そして「次は絶対に失敗できない」と、見えないプレッシャーに自分自身を追い込んでいく。

「0点か、100点か」

そんな都会の「完璧主義」という重い鎧を着込んでいた私は、月に1週間ほど滞在している熊本県の山奥・槻木(つきぎ)集落で、ある出来事をきっかけに、その鎧をポロリと脱ぎ捨てることになりました。

今日は、都会の息苦しさにすり減っているあなたに、限界集落が教えてくれた「超ポジティブな諦め力」についてお話しさせてください。

目次

  1. 一生懸命育てたかぼちゃが、サルに全部奪われた日
  2. 泥だらけの水道修理と「まあ、しゃあない」という強さ
  3. 「60点」でもいい。不完全を受け入れ、丁寧に生きる
  4. 険しい山道の先にある、静かな星空

一生懸命育てたかぼちゃが、サルに全部奪われた日

槻木集落での滞在中、私は地元の方に畑を少しだけお借りして、自家農園で野菜を育てていました。

手塩にかけて育てた、立派なかぼちゃ。「そろそろ収穫の時期だな」と楽しみに畑へ向かったある日のこと。目の前に広がっていたのは、見事に荒らされた畑の姿でした。

ちょうど実る絶好のタイミングで、サルに綺麗に荒らされ、ちゃんと育ったものだけを全て持っていかれてしまったのです。

都会の仕事で、何ヶ月も準備したプロジェクトが理不尽に白紙になったとしたら。きっと私は、頭を抱えて深く絶望していたでしょう。でも、不思議なことに、この時の私は少し違いました。

「見事に綺麗に荒らされたな。まあ、僕の管理が悪かったか」

ショックはありましたが、動物だって生きるのに必死です。むしろ潔いくらいの被害を前に、割とすぐに気持ちが切り替わり、なんだかスッキリとした感情すら芽生えていたのです。

私が荒らされた畑を見つめていると、かぼちゃ作りの師匠である地元のおじいちゃんとおばあちゃんがやってきました。そして、私の畑を見て一言。

「とられちゃったねー(笑)」

怒るでもなく、同情しすぎるでもなく、ただ笑っていました。そう、槻木集落において、自然や動物相手に「思い通りにいかないこと」は、当たり前の日常なのです。

泥だらけの水道修理と「まあ、しゃあない」という強さ

もう一つ、私の完璧主義を打ち砕いた象徴的な出来事があります。

生活用水のほとんどを「湧き水」で賄っている槻木集落では、水道管のトラブルも珍しくありません。ある日、集落の水道管が壊れて水が出なくなってしまった時のこと。

集落支援員の中村さんは、冷たい水で水浸しになり、泥だらけになりながら、嫌な顔一つせずに一生懸命修理に励んでいました。容赦なく噴き出す水と、泥の匂い。

そんな中村さんの姿を見て、周囲の住民の方々は「ありがたいねぇ」と大きな感謝の気持ちを抱きながらも、決して焦ることはなく、安心してその作業を見守っていました。

都会にいる時の私は、「インフラは壊れてはいけない」「失敗してはいけない」と、常に気を張って生きています。でも、ここでは違いました。

「壊れることはある。その時は、直せばいい」

大自然の中では、どんなに準備をしていても不測の事態が起こります。だからこそ、失敗を恐れるのではなく、問題が起きた時に泥だらけになって対処できる。その「しなやかな強さ」に、私はひどく魅了されました。

「60点」でもいい。不完全を受け入れ、丁寧に生きる

思い通りにいかないのが当たり前の環境。だからこそ、彼らは少しの失敗で一喜一憂しません。

完璧に進まなくてもいい。0点か100点かで自分を採点するのではなく、80点でいい。いや、70点でも60点でもいい。
少しでも幸せだったり、楽しかったり、現状が昨日より少しだけ良くなっていれば、それでいいじゃないか。

「すべての物はいつかなくなるし、壊れることもある」という大自然の哲学が、ここには溢れている気がします。

でも、それは決して「投げやりになる」という意味ではありません。壊れることを受け入れながらも、できる限り壊れないように自分自身で努力し、今目の前にある暮らしや人間関係を「丁寧に、大切に生きていく」

これこそが、完璧を求めすぎて身動きが取れなくなっていた私を救ってくれた、限界集落流の「超ポジティブな諦め力」でした。

険しい山道の先にある、静かな星空

月に一度の槻木滞在を終え、名古屋へ戻る日。私は車に乗り込み、片道50分の険しい山道を下ります。

この集落に来る前、私の頭の中は「お金」「キャリア」「老後」といった、見えない将来への不安でいっぱいでした。でも、木々で覆われた暗い山道を一人で運転していると、不思議なことに、心の中がどこか明るく照らされているように感じるのです。

「とりあえず、やってみよう」
「失敗しても、またやり直せばいいんだ」

人生は、思い通りにいかないことばかりです。でも、それを「まあ、なんとかなるか」と笑って受け入れることができた時、私たちの肩の荷はきっと軽くなるはずです。

険しい山道を登った先には、どんな失敗も優しく包み込んでくれる、圧倒的に静かな星空が待っています。そんな大自然に触れてみたいと考えたなら、いつでも、槻木集落にひと休みしにきてくださいね。

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